
日本のオーディオテクニカから有線の開放型ダイナミックヘッドホンのフラグシップモデルであるATH-ADX7000が2025年10月31日に発売されました。
オーディオテクニカではこれまでATH-ADX3000、ATH-ADX5000と高価格帯の有線かつ開放型のダイナミックヘッドホンが発売されており、2017年11月10日発売のATH-ADX5000がフラグシップモデルだったのですが、今回その更に上位モデルという位置付けで、価格についてATH-ADX7000はATH-ADX5000のほぼ倍となっています。
ATH-ADX7000の外観や付属品など

ベルベット素材の妙中パイル織物社製イヤパッド以外にアルカンターラ社製イヤパッドも付属
ATH-ADX7000は製品本体以外にアルミ製のアタッシュケース型専用ハードケースとケーブルポーチ、3mの6.3mm標準プラグのケーブルと同じく3mの4pin XLRのバランスケーブル、アルカンターラ社製の交換用イヤパッドが付属します。
ケーブルのヘッドホン側はオーディオテクニカ独自の専用設計のA2DCコネクターのため、純正以外のヘッドホンケーブルを使うことは難しいと思います。4.4mmのバランスケーブルも付属していれば良かったのですが、現状では4pin XLR→4.4mm変換コネクターや変換ケーブルを利用するしかなさそうです。
重さや装着感など
ヘッドホンの重さは275gで実際持ってみても非常に軽いです。あまりの軽さに50万円を超えるヘッドホンとは思えないくらいです(重ければ良いというものではないのですが)。
側圧も適度で、ヘッドホン自体の軽さもあり頭頂部の圧迫も勿論なく、長時間装着していても非常に快適です。装着感の良さは抜群に優れていると言えます。
技術的なことについて
ATH-ADX7000は振動板にコイルを接着してコイルに入力された電気信号により発生する磁力とコイルの周りにある永久磁石との吸引力や反発力で振動板を前後に動かして音を発生させる普通のスピーカーと同じようなダイナミック型のドライバーを採用しており、ドライバーの背後を密閉しない開放型のハウジングとなっています。このようなダイナミック型ドライバーを採用したヘッドホンは昔から世の中に多数あり、各社振動板の大きさだけでなく振動板そのものに独自の材料を使用したり、振動板にコーティングをしたり、ハウジングを工夫したりと様々なことを昔からしてきています。
バッフルー体型58mmドライバー
オーディオテクニカの高級開放型ダイナミックヘッドホンのADXシリーズでは、バッフルというドライバーを支える部分とドライバーを一体化する方法で、部品点数を最小限に抑え、音に混ざるわずかな歪みも排除し音の流れを改善する方法を採用しています。

こうすることで振動板が動く度に音が瞬時に空気の振動から生み出され、周波数が人工的に変換されたり、空洞や共振で変化したりすることがなく、純粋でリアルな音場を実現できます。この空気の流れをコントロールし、より自然な振動板の動きで原音を忠実に再生する開放型のダイナミックヘッドホンを突き詰めた技術をオーディオテクニカでは「トゥルーオープンエアーオーディオ(True Open-Air Audio:TOA)」と呼んでいます。

HXDT(Hi-Concentricity X Dynamic Transducer)技術
トゥルーオープンエアーオーディオ(True Open-Air Audio:TOA)を実現するためにはハウジング、バッフル、ドライバーを構成する振動板やコイル、コイルを取り巻く磁石などの部品の精度や組み付けが精確である必要があります。
ドライバーを支えるバッフルはアルミニウムの塊からCNC加工で精密切削され、高い剛性を保ちながらも不要な共振を抑え軽量化にも貢献しています。
限りなく真円になるように各部品を従来製品1/10の精度で製造、精密成型技術により振動板形状を寸分の誤差なく超高精度に成形、高精度に切削されたアルミニウム製バッフルと振動板を一体化し、永久磁石、ボイスコイル、振動板をまっすぐ同軸上に同心円状に精密に配置しています。こうすることで正確な音波の伝達と一貫した音の再現性を実現し、音の芯がぶれず、細部までクリアな描写が可能になります。

磁石の部分は磁気の流れがどの方向にも均一になるよう設計された、日本発祥の無方向性電磁鋼板をヘッドホンに初めて採用、磁気回路内で磁束がスムーズに流れることで、エネルギーロスを最小限に抑え、電気信号から磁力への変換効率を高めるだけでなく、ノイズの発生を抑えられ、音の透明感を一層際立たせることに成功しています。

新素材振動板
振動板は従来製品は金属のタングステンをコーティングした振動板を使用していましたが、新素材の採用と成形技術の進歩でこうした金属コーティングを行わなくても必要な剛性を担保しながら正確に動かせる振動板を一体成形することが可能となり、金属コーティングを行わないことで振動板の軽量化や動きやすさにも繋がり色付けのないクリアで、深い低音から魅力的な中音、刺さりのない伸びやかな高音に至る音質の向上に大きく影響しています。
コアマウントテクノロジー(PAT.P)
耳からハウジングまでの空間の2分の1の位置にボイスコイルが配置される構造を採用、バランス良く自然な音場で、抜けの良い音を再生するオーディオテクニカ独自の特許技術です。

490Ωハイインピーダンス空芯ボイスコイル
ATH-ADX7000専用設計の空芯ボイスコイル(芯がなく振動板に直接コイルを直付けする)を採用、軽量化された振動板と相まってコイルの巻き数をしっかり担保することでよりハイインピーダンス化を実現し強力な電磁駆動力を獲得、新採用の無方向性電磁鋼板との相乗効果で全帯域でレスポンスが向上、ダイナミックレンジも一段と広がり繊細なニュアンスから力強い表現まで音楽の深みを余すことなく描写することに成功しています。

特殊ハニカムパンチングハウジングとマグネシウム成型フレーム&アーム
日本の精密プレス加工技術によりひとつひとつ丁寧に成型された特殊ハニカム構造のアルミニウム製ハウジングとマグネシウム成型のフレームとアームが剛性を確保しつつ不要な共振を抑え振動板の正確な動きをより一層引き出し、音の純度向上や軽量で快適な装着感の両方に大きく貢献しています。

音質について
ATH-ADX7000はインピーダンス490Ω、能率100dB でスマートフォンやDAPからの直接接続では十分な音量が得られなかったり本来の音質が楽しめなかったりする可能性が高く、AC100Vのコンセントに接続する据え置きタイプのヘッドホンアンプ(出来ればXLR4pinバランス出力付きのもの)があることが望ましいヘッドホンです。ただ一部の平面磁気駆動型ヘッドホンのようなスピーカーを駆動出来るくらいの強力なヘッドホンアンプまでは必要なく、高インピーダンスのヘッドホンに対応したそれなりの出力を持った据え置きヘッドホンアンプであればいいかと思います。
このヘッドホンは色付けは極めて少なく上流のDACやヘッドホンアンプの影響を大きく受けやすいです。ガヤガヤした量販店で試聴すると一聴すると高価な値段の割に何だか普通の音に感じてしまう可能性があります。試聴の際は出来るだけ静かな部屋でそれなりのDACやヘッドホンアンプでのご試聴をおすすめします。極めて高度な表現力を持ったポテンシャルが非常に高い「普通の音」であることが分かります。
高音
オーディオテクニカといえば突き抜けるような高音を想像してしまいますが、ATH-ADX7000は割と穏当な高音で十分伸びていますが刺さりがなく聴きやすい音になっています。非常に上手くコントロールされていると思います。
中音
ボーカルは適度に湿り気もあり表情豊かかつ適度な厚みもあり、大変魅力的で思わず聴き入ってしまう程です。目の前で歌ってくれているような感覚になってしまうくらいです。
低音
量感も十分あり制動が効いた深みのある低域が音楽全体を下支えしている感じでボワつきは一切ない質が高い低域だと思います。
音場
とても広く感じます。コンサートのライブ音源ですと軽くて装着感の少ないヘッドホンであるのと開放型で音の抜けもよいので本当にその場に居るかのような感覚になります。
定位
これがまた素晴らしく、音の分離が良くどこでどんな音が鳴っているか良く分かります。装着感の良さもあり、値段的にどうかとは思いますが、FPSみたいなゲームに使用するゲーミングヘッドホンにも向いてるとは思います。
まとめ
音質は十分に高く、音源の持つ情報を歪みなく正確に色付けなく耳に届けることが出来る開放平面駆動型ヘッドホンにも勝るとも劣らない開放型ダイナミックヘッドホンだと思います。空間描写力も高く、音の広がり、音場表現、定位も良く、それに加えて非常に軽くて装着感も極めて良好です。一言で言えば極めて高品位な「普通」な音がするヘッドホンです。もっと良い音がするヘッドホンは他にもあると思いますが、極端に高出力な据え置きヘッドホンアンプが必要であったり、得てしてヘッドホンが重かったり、音にやや色付けがあったり(それが聴き手により好ましい影響を与えたりします)しますが、このヘッドホンは良い意味でもそうでない意味でも色付けが少ないので、人によっては物足りなく感じてしまうかもです。私としては真っ当に真面目に物理特性や精度を極限に高めることで何か特別なことをせずに地道に平面駆動型ヘッドホンに負けるとも劣らない素晴らしい音質の開放型ダイナミックヘッドホンを作り上げたその技術力の高さを高く評価したいな、と思いました。ダイナミックドライバーはまだまだ伸びしろがあるということですね。オーディオテクニカのATH-ADX7000は極めて高音質なヘッドホンで今後開放型ダイナミックヘッドホンの日本を代表するヘッドホンとなり得るポテンシャルを持ったマイルストーン的な製品であると言えます。
