Meze Audio POET

Meze Audioとは?

Meze audioはルーマニアのヘッドホンやイヤホンのメーカーで、2015年に発売された「99 Classics」が有名です。その他にも平面磁気駆動・開放型ヘッドホンの「EMPYREAN」シリーズや「ELITE」等が良く知られています。

POET

POETはEMPYREANやELITEと同様の平面磁気駆動・開放型ヘッドホンです。製品のランク的にはEMPYREANやELITEの技術を受け継いだミドルハイクラスのヘッドホンとなっています。海外では2,000ドルで販売されており、日本であればfinalで最近発売されたDX6000、海外のメーカーのHiFiMANであればArya Organicあたりになると思います。ただ、日本では為替の影響もあってお値段が33万円とミドルハイではなくハイクラスの値段になってしまっています。

POETの外観や付属品など

専用ハードケースと2.6mの6.3mm標準プラグのケーブルが付属

POETは製品本体以外にプラスチック製の専用ハードケースと2.6m長のPCUHDアップグレードケーブル(カッパー)の6.3mm標準プラグが付属します。4.4mmや4pin XLRのバランスケーブルは残念ながら付属しません。

メーカー純正品であれば109 Pro/Liric用アップグレードケーブルがPOETに利用出来ます。

POETと別売のXLR COPPER PCUHD PREMIUM CABLES M3.5-CXLRP

ヘッドホン側は標準的な3.5mmモノラルタイプのプラグが使えるため、純正品以外でも様々なケーブルが使えるのは良いと思います。

重さや装着感など

ヘッドホンの重さは427gでそんなに軽くはないのですが、実際装着してみるとそんなに重さを感じることはなく、側圧も適度で長時間装着していても快適に着けていられます。

技術的なことについて

POETのドライバーは平面磁気駆動型ですが、「LIRIC」のRINARO MZ4ドライバーと「ELITE」のRINARO MZ3SEドライバーから受け継がれた、RINARO MZ6ドライバーを搭載しています。


RINARO MZ6ドライバー

Mezeの平面駆動型ドライバーの振動板は重さ0.06gと非常に軽量なのですが、特に他社と大きく異なるのはダイアフラム上に蛇行するコイルと同心円状のコイルを組み合わせていることです。このデュアル駆動ボイスコイルシステムのドライバーをMezeでは「Isodynamic® Hybrid Array ドライバー」と呼んでいます。このコイルシステムは初代「EMPYREAN」で初採用され、Mezeの平面磁気駆動型ヘッドホンにはどのヘッドホンにも使われています。

Isodynamic® Hybrid Array ドライバー

※ISODYNAMIC®は、Rinaro Isodynamics Limitedの登録商標です。

ドライバーの上部に配置された左右に蛇行するコイルは「スイッチバックコイル」と呼んでおり、主に低音再生を担当、音楽の土台を支え、臨場感を生み出す役割を担っています。

直接耳にあたる部分に配置された同心円状のコイルは「スパイラルコイル」と呼び、主に中高音再生に優れた性能を発揮、音波をダイレクトに外耳道へと伝えることで遅延を最小限に抑えて明瞭な音を実現しています。

この「スイッチバックコイル」と「スパイラルコイル」が互いに連携することで、低音から高音まで全帯域において歪みのないクリアで正確なサウンドを実現、理想的な音のハーモニーを生み出しています。

以上に加えてPOETにはDan Clark Audioからライセンス供与された「Acoustic Metamaterial Tuning System : AMTS」が初採用されています。精密に設計・加工された金属部品をドライバーの前面に配置することで高周波ピークを抑制し、長時間リスニングにおける聴覚疲労を軽減、音楽の持つ美しさを最大限に引き出すことを可能にしています。

POETのドライバー部分。AMTSのロゴが見える。

音質について

POETはインピーダンス55 Ω、能率101 dB で比較的鳴らしやすく、DAPでも十分駆動可能ですが、ケーブルの影響を受けやすいヘッドホンです。最初純正のXLR COPPER PCUHD PREMIUM CABLEで聴き始めたのですが、いまいちパッとしなかったので、SIVGA P2 PRO付属の4.4mmバランスの6NOCCケーブルを使用したところ、音の明瞭度や低音の出具合が良く感じられたので今はSIVGA P2 PRO付属のケーブルをPOETに使用、元々付属していた6.3mm標準プラグのCOPPER PCUHD PREMIUM CABLEをSIVGA P2 PROに使っています。なお、SIVGA P2 PROのヘッドホン端子側は差し込み口が狭いので他社製のケーブルは使いづらいのですが、Mezeのケーブルはヘッドホン側の3.5mmプラグが細身なので問題なくSIVGA P2 PROで使えました。

SIVGA P2 PRO付属の4.4mmバランスの6NOCCケーブルを使用。ヘッドホン本体とプラグの色もマッチしている。

高音

POETの高音はキレがありながらも刺さりがなく聴きやすいチューニングになっています。逆に言えばキラキラした感じは若干薄めとも言えます。

中音

このヘッドホンの真骨頂がこの中音域にあると言っても過言ではなく、ボーカル物を非常に魅力的に聴かせてくれます。勿論楽器の音も伸びがありとてもナチュラルな鳴り方となっています。

低音

必要かつ十分な低音で他の音域を邪魔しないように下支えしている感じで量感もそれなりにありますが、中高音と比べると控えめと言えるかと思います。

以上だとなんだかカマボコ型のサウンドという書き方になりますが、高域も低域もそれなりに伸びており、キレやスピード感、音の粒立ち等申し分なく、総じて全帯域的にバランスが整ったやや温かめの聴き疲れしにくいチューニングになっています。このヘッドホンはどこか特定の帯域を強調するよりも音楽を楽しむ上で大事な中音域の再生を大事にしたサウンドバランスにしていると考えられます。

音像

もう一つ特徴的と思えるのが音像の確かさで、楽器がどこで鳴っていて、ボーカルの声がどこから発っしていてというのがしっかりしていることです。これは「Isodynamic® Hybrid Array ドライバー」システムが効いている感じがします。音の広がりも感じられますが、何となく空間を感じさせるのではなく、それぞれに楽器やボーカルを適切に描き分ける能力の高さがこのヘッドホンの一番の魅力ではないかと思いました。

まとめ

Maze POETはこれまでのMazeの平面駆動型ヘッドホンの技術を集大成し、Dan Clark Audioから新たにAMTSも導入、価格もEMPYREANシリーズやELITEよりも抑えデザイン的にも優れた意欲的なヘッドホンと言えます。実際に音質も優れており、駆動もしやすくまさに万人受けしそうな感じですが、Xでの投稿を見ていても2025年春の発売から実際の購入の投降は2025年7月上旬時点で自分以外には見かけないという、なんだか盛り上がりに欠ける感じになっています。

この原因を考えて見ましたが、既に平面磁気駆動型ヘッドホンは低価格帯からかなり多く発売されており、今や珍しいものでなくなってきていること、音質も平面磁気駆動型は低価格帯でも優れているものが多く、高価格帯との差別化が難しくなってきていること、あとはPOETに関して言えば、2,000ドルの価格帯ですが、日本では円安の影響で価格が30万を超えており(思えば初代final D8000は34.7万円で買っていました)、もはやリーズナブルとは言えない価格帯になってしまっているにも関わらず、付属のケーブルが6.3mmの標準プラグしか付属しないことが挙げられます。現在ではポータブルプレイヤーでも据え置き機器でも4.4mmバランスジャックを備えているものが多く、消費者への訴求を考えると4.4mmバランスケーブルは最初から付属した方が良かったのではないかな、と思っています。

投稿者: NH

X @naohisa_h